村のワタシの船頭さんは ことし六十のお爺さん
年を取っても お舟をこぐ時は 元気いっぱい
ロガシナル それ ぎっちら ぎっちら ぎっちらこ
還暦すぎの方々には懐かしい童謡だろう。しかし事務所の新人はこの歌を知らないらしい。
今考えると笑うしかないが、歌を覚えた当時は「村の私の船頭さん」と思い込んでいたし、「ロガシナル」は単なるおまじないの言葉だと思っていた。まさか「櫓が撓る」だとは。耳から覚えた幼児の理解力とはその程度のものなのだろう。
ところで、六十歳=老人、はその頃の私には当たり前のことだった。まわりで唯一の年寄り、私の祖母もまだ五十代であった。
世間一般もそうだったのだろう。私が大学を卒業したころは五十五歳が定年だった。それがいつの間にか、六十を超え、今や六十五歳定年が企業には義務づけられたらしい。ま、本人も元気で、やる気があり環境も整っているのであればそれも良かろうが、政府の思惑で年金受給開始年齢を引き上げ、さらに所得税を徴収するためだとしたら、困ったものだ。若者の就職への影響も大きい。
幸か不幸か、私の仕事には定年がない。とは言え、いつまでも事務所にぶらさがっているわけにもいくまい。経験というあやふやなもの以外、肉体も頭脳も、すべてが壊れつつあることは確かだ。そろそろ自分で引退の時期を決めねばならない。
私を含め、将来の「高齢者像」が見えない。
近頃は「隠居」という言葉も聞かなくなった。 |